サントリー新浪会長THC問題の背景と法改正後の課題
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なぜ法改正から9ヶ月後にTHC含有製品問題が発生したのか
事件の概要
2025年9月1日、サントリーホールディングスの新浪剛史代表取締役会長が辞表を提出した。この突然の辞任の背景には、大麻由来成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」が含まれた製品をアメリカから輸入した疑いで、福岡県警による家宅捜索を受けたことがある。
法改正のタイムライン
- 2024年12月12日:大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部改正施行
- 2025年8月22日:新浪氏の自宅家宅捜索
- 2025年9月1日:新浪氏辞表提出
法改正から9ヶ月後の問題発生の背景
1. 認識不足と教育の遅れ
2024年12月12日の法改正により、CBD製品に含まれるTHCの基準値が大幅に厳格化された:
- CBDオイル・原料:10ppm(0.001%)以下
- 水溶性CBD:0.1ppm以下
- その他の製品:1ppm(0.0001%)以下
しかし、この厳格な基準に対する理解と周知が十分でなかった可能性がある。新浪氏が「適法な製品だと思っていた」と説明していることからも、新基準への認識不足があったと考えられる。
2. 海外製品の規制格差
アメリカなど合法国では、日本よりもTHC許容量が高く設定されているため、海外で適法とされる製品が日本の新基準では違法となるケースが多発している。
他国との比較例
- アメリカ(州により異なる):0.3%(3,000ppm)まで許可
- 日本(改正後):最大10ppm
- 許容量の差:約300倍
3. 市場の混乱期
法改正により多くのCBD事業者が製品の再検査や輸入停止を余儀なくされ、市場全体が混乱状態にあった。この期間中に、基準をクリアしていない製品が流通し続けていた可能性がある。
CBD業界の根本的問題
旧規制下での構造的課題
2024年12月12日以前、日本のCBD市場には深刻な構造的問題があった:
1. 「茎と種」偽装問題
- 旧法では大麻草の「成熟した茎と種」からのみCBD抽出が許可
- しかし、実際には茎と種からの商業的抽出は技術的・経済的に不可能
- 検証実験によると、1kgのCBDアイソレート抽出に必要な量:
- 茎:6,645kg(約6.6トン)
- 種:107,639kg(約107トン)
2. 偽造証明書の横行 松沢成文参議院議員の調査によると、「CBDを大麻草の『成熟した茎と種』からのみ抽出することは、植物の特性及び現在の製造技術からも現実には不可能である」ことが明らかになっている。
米国の関連機関も同様の見解を示しており:
- 米国麻薬取締局:「茎と種子からCBD抽出物を製造するのは現実的ではない」
- 米国麻産業協会:「米国で製造される99%のCBDは葉・花穂から抽出」
3. 価格の異常性
市場には不自然に安価なCBD製品が流通していた:
- 通常価格:20-30万円/kg
- 異常安価品:数万円/kg
この価格差の背景には以下の要因があると分析される:
- 合成CBDの使用
- 密輸による違法流通
- 偽造証明書による不正輸入
改正法の限界と課題
1. 検査体制の不備
厳格な基準設定にもかかわらず、国内の分析体制が不十分:
- THC検出には高額な標準化合物が必要
- 麻薬研究者免許が必要
- 厚労省認定検査機関の不足
2. 既存事業者の意識の問題
改正法施行後も、過去の違法行為を軽視する事業者が存在:
- 「改正後は罰せられないから問題ない」という認識
- 品質管理への意識の低さ
- コンプライアンス体制の不備
COA(分析証明書)の重要性
見るべきポイント
1. 農薬検査項目
- Carbamate group(カーバメート系):主に殺虫剤として使用
- Organophosphate group(有機リン系):神経毒性が高い殺虫剤
- Organochlorine group(有機塩素系):残留性が非常に高い
- Pyrethroid group(ピレスロイド系):合成殺虫剤
2. 重要な表記の理解
- NMT(Not More Than):この成分が超えてはならない基準値
- ND(Not Detected):検出されなかった(最も安全)
- LOD(Limit of Detection):検出限界
- COA(Certificate of Analysis):分析証明書
COAの信頼性問題
現在の市場では以下の問題が指摘されている:
- 文字が読めないサイズでの掲載
- COA(分析証明書)の使い回し
- 偽造された分析結果
ブロックチェーン技術による解決策
BiBiの先進的取り組み
今回のサントリー問題のような事態よりも前から、CBD業界では根本的な透明性向上が急務となっている。この課題に対し、BiBi社は業界初のブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティシステムを導入している。
BiBiのブロックチェーンソリューション
「真実の種を、希望の土壌で育む」をミッションに掲げるBiBi社は、従来の業界が抱える以下の問題に正面から取り組んでいる:
- 改竄された原料証明
- エビデンスのない合成物原料
- 不透明な流通経路
具体的な証明プロセス
- 栽培農家からの暗号署名による原料証明
- 抽出事業者による製造過程の記録
- 第三者機関による成分分析結果の連携
- 全工程がブロックチェーン上に不可逆的に記録
今後の課題と対策
業界の健全化に向けて
1. 透明性の確保
- 暗号署名技術を活用した原料証明システム
- ブロックチェーンによる流通経路の追跡
- 第三者機関による厳格な品質検査
2. 教育と啓発
- 新基準に関する業界向け講習会
- 消費者への正しい情報提供
- 法改正内容の継続的な周知
3. 執行体制の強化
- 検査機関の増設
- 水際対策の強化
- 事後監視体制の確立
合成CBDと天然CBDの問題
市場に潜む危険性
合成CBDの特徴
- 実験室で化学的に合成
- 大量生産が可能で低コスト
- アントラージュ効果(他のカンナビノイドとの相乗効果)が期待できない
- 安全性に関する長期的なデータが不足
天然CBDとの違い
- 天然CBD:大麻植物から抽出、他の有益な成分も含有
- 合成CBD:単一化合物、効果が限定的な可能性
CDC(米国疾病予防管理センター)は、合成カンナビノイドの潜在的危険性について警告を発している。
結論
サントリー新浪会長のTHC問題は、法改正から9ヶ月が経過した今でも CBD業界の根本的な構造問題が解決されていないことを浮き彫りにした。
主要な問題点
- 新基準への認識不足と教育の遅れ
- 海外製品の規制格差への対応不備
- 過去から続く業界の不透明性
- 検査・監視体制の不十分さ
必要な対策
- 事業者の意識改革とコンプライアンス強化
- 透明性の高い流通システムの構築
- 消費者保護体制の確立
- 国際的な基準調和の議論
真の業界健全化のためには、単なる規制強化だけでなく、事業者の意識改革、透明性の確保、そして消費者保護を三位一体で推進する必要がある。今回の事件を機に、CBD業界全体が根本的な体質改善に取り組むことが求められている。
参考資料
- 第211回国会 大麻由来成分「CBD」の違法な流通実態に関する質問主意書
- 厚生労働省「令和6年12月12日に『大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律』の一部が施行されます」
- CBD原料のCOA(分析証明書)ガイド|PGRや農薬のリスクを見抜くチェックポイント - BiBi
- CBD業界の闇検証実験:果たして茎と種からCBDは取れるのか? - BiBi
- 日本のCBD業界の闇:2024年大麻取締法改正後の真実と未来 - BiBi
- なぜ手間のかかるCBD原料が驚くほど安い価格で売られているのか? - BiBi
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